Q. 今回『身近な人ががんになったときに役立つ知識76』(ダイヤモンド社)を出版されたましたが、出版するきっかけはなんだったのでしょうか。
A. がんは治療技術の進歩により、がんで亡くなるまでの時間が飛躍的に延長し、より長期の療養が必要な、慢性疾患に近い状況にすらなりつつあります。そういったときに大事になって来るのが、お金の問題や仕事の問題など、がんにかかった身として生きて行く、がんサバイバーとしての日常生活の維持を視野に入れた治療とそのサポート手段です。特にお金に関しては、金銭的な理由で治療を断念せざるを得ない状況を避けることを念頭に、がんの治療を受けるにあたって知っておくべきことをまとめたいと思っていました。患者さんには、お金周りのことを恥ずかしいと思わず、使えるサービスや補助金は全て活用してもらいたいと思っています。
Q. 本の中でも代替医療については触れられていますね。
A. 世の中には代替医療と呼ばれるものも多いですね。ヨガや気功、鍼灸、健康食品やサプリメントなどが挙げられます。がんになったと聞くと必ずこういうものを勧めて来る知人や家族が現れますし、実際に患者さんでそれらを利用している人も多いのが現状です。気分転換のためのヨガなどリラクゼーション効果を期待する、好きだから使う、などで本来の治療の補助として使うのは構いませんが、これらの代替医療にはがんを治癒させるという医学的な効果が証明されているものはほとんどありません。薬との飲み合わせなど、場合によっては治療効果の得られる治療方法の妨げになるものもあります。しかもこれらの治療は通常の保険診療ではカバーされず、高価なものも少なくありません。ですので、まずは保険診療でカバーされる、病院でのがん治療を中心に置き、代替医療だけでがんを治癒させようとしないことが大切です。
がんの治療期間が伸びたということは、きちんとした治療を続けることにもお金がかかります。さらに、がんになると仕事は続けられないと考える方もまだ多く見られますが、治療法の進歩により、従来よりも軽い負担で、仕事を続けながら受けることのできる治療の選択肢も増えてきました。そのためにも経済的なバックアップは必要で、職場の様々な制度を利用したり、場合によってはハローワークががん診療連携拠点病院と連携して体調と相談しながらの就職斡旋などを受けたりすることもできること、そういった確かな「救いの手」を活用しながら、がんと付き合ってもらえたらと思います。
Q. 内野先生が遠隔医療相談をやられている理由はなんですか?
A. がん診療に限らず、今の医療ではセカンドオピニオンを受けることが一般的になってきました。セカンドオピニオンとは、治療方針などに関して主治医以外の医師からの意見を聞くことです。以前は他の医師に意見を聞くことはタブーとされていた雰囲気がありましたが、最近はそうでもなくなってきました。しかし、患者さんにとっては目の前の担当医への気兼ねなどで言いづらい雰囲気があったり、時間的距離的な制約で違う病院に相談に行くのが難しいこともあるかと思います。オンラインであれば、そういった壁は少しは低くできるかと思うので、患者さんにとっても利用しやすいものだと思います。また、必ずしも現時点の治療方針に疑問があるわけではなく、主治医やスタッフにも満足し、治療方針に納得がいっていても、セカンドオピニオンでもう1人の専門家に同じことを言ってもらうことで治療を受ける後押しになる、とおっしゃる方もいますし、今後はそういった相談の仕方も増えて来るのではないかと思います。
放射線治療医
内野三菜子
国立国際医療研究センター
国府台病院 放射線治療室長 医学博士
東京女子医大卒。東京医療センターにて外科研修医。聖マリアンナ医大放射線科、埼玉医大放射線腫瘍科を経て、2010年1月からトロント大学プリンセスマーガレット病院放射線腫瘍科にて、日本人初のクリニカルフェローとなる。並行してトロント大学オンタリオ教育研究所(大学院)医学教育学にて修士号取得。
帰国後、国立国際医療研究センター病院を経て現職。日本医学放射線学会専門医(放射線治療)、がん治療認定医。