私が実家に帰ると、両親や兄弟(医療者ではない)から、ほぼ必ずといっていいほど医療関係の相談をされます。
例えば、「最近足がむくんできたが大丈夫か?」だとか、「今度病院にかかるが、最近の調子で何か言っておいたほうが良いことはあるか?」など、です。こういった質問や相談は、ときに重要な要素を秘めており、治療方針に関わることもあります。
しかし、親戚内の医師に質問するのと同じように、病院でも気軽に質問できる環境は日本にどれほどあるでしょうか? もちろん、こういった身近な質問に耳を傾けようとする医師は日本にもいらっしゃいます。しかし現実として、現在の日本の医療現場では多くの患者を診察しなければならず、十分な時間は取れません。患者さんは、忙しそうな医師を見て、些細な質問をしづらくなっているのではないでしょうか?
本来、医師と患者との信頼関係は、こういった「些細な会話」に乗ることから生まれるものです。「遠隔医療相談」という新しい医師と患者の接点ができることで、些細な会話にも私達医師が耳を傾け、何かあった時にもそばに医師がいる環境を作れればと思いました。
普段の外来などでは必要な話を要領よく聞こうとしていることに、遠隔医療相談をはじめてから気付きました。
普段は診察室の外にいらっしゃる患者さんの待ち時間を少しでも短くせねば、とあくせくし、ともすれば「3分診療」になってしまいかねません。
しかし、遠隔医療相談では、時間をしっかりとれるため、患者さんの素朴な疑問や、普段気になっているちょっとしたことにも耳を傾けることができます。
親戚の医師に気軽に質問するような環境が、そこにはあるように感じました。
私は普段、都内の中核病院で救急医として働いています。救急医という性質上、患者さんを長期間継続的に外来で診察することは少なく、一期一会の関係になりがちです。そのぶん、非常に多くの方の診察をさせていただいています。そんな環境で働く中で、せつに感じるのは、普段から相談できるような医師を持っているか、いないかは患者さんの健康状態に大きく関与しているということです。
薬や手術だけで体調不良は治るものではなく、普段のちょっとした生活習慣の積み重ねが大きく関係します。普段から気軽に相談できる医師をもつ患者さんは、少しずつであれ生活習慣が良い方向に向かっていることが多く、大きな病気をしても治りやすいように感じます。
「今後の日本の医療」と聞くと、なにか新しいことのように聞こえますが、最も大事なのは、これまでも・今後も、医療者と患者との丁寧な会話だと思います。オンラインという便利なツールが正しく使われ、そんな会話がより身近なものになれば、と願います。
救急医
石川 陽平
2007年、東京慈恵会医科大学入学。2013年、聖路加国際病院に入職。初期研修修了後、東京慈恵会医科大学リハビリ科を経て、2016年より聖路加国際病院救急部。これまでにWHOジュネーブ本部、Harvard公衆衛生大学院、国立保健医療科学院、日本医療政策機構での研修に参加するなど数々の取り組みに精力的に参加。2014年度、聖路加国際病院 ベストレジデント。